INTERVIEW by TAKAO MATSUI - 世界一過酷なコースで確認できたエボXの実力

エボX開発者の松井孝夫がドライバーとしてニュル24時間に参戦
1周25km以上もあるアップダウンに富むドイツの山岳コースで開催される、“世界一過酷”と言われるツーリングカーレース「ニュルブルクリンク24時間レース」。ここにランサーエボリューションXがデビューした。今年は200台近い車両を集め5月21~24日に開催されたが、エボXのドライビングスタッフの中に日本人の姿を発見。なんとエボX開発ドライバーを務めた松井孝夫氏だった!現在は三菱自動車R&Dヨーロッパのエンジニアである松井氏にエボXの素質、レースの話を聞いた。

エボⅩが目指したものとは

「私はドイツに来る前にはエンジニアとしてランサーエボリューションⅩの開発に携わりました。操縦安定性の試験部門においてハンドリングをチェックしたり、すべての部品やボディ、サスペンションといった部分の基本諸元や剛性の確認、そして味付けはもちろん、タイヤやS-AWCのチューニングなど、自分でエボⅩを走らせながら作りました。特別な運転技術を持っていなくても、誰もがコツなくAYC性能を発揮できるようなクルマを目指して作ってきました。特にエボⅩは、AYCを含むS-AWCがドライバーの意志・運転操作に忠実に働くようなクルマになったと思いますし、S-AWCがドライバーをサポートすることが安心・安全につながっていると思います」

レースカーに見るベース車両の優秀さ

「ニュルブルクリンク24時間に参戦したレース仕様車は、基本的に市販車をベースに安全のための装備、たとえばロールバーや安全燃料タンクを入れて、エアコンやラジオ、オートウィンドウなどの快適装備を取り外して軽量化を行いました。さらに車高を落としてサスペンションの交換、大容量のブレーキへの変更、排気効率の良いマフラーへの交換、そしてコンピュータのチューニングなどを行い、レース用スリックタイヤへ交換などで、極力、市販車に近い仕様となっています。SSTやS-AWCのセッティングはほぼノーマルのままです。
この車はSSTを共同開発したドイツのゲトラグ・フォードトランスミッション(GFT)社がSSTの性能アピールと実戦開発のために製作したもので、私はエボXの開発者としてサポートすることになりました。一緒に走った他の3名のうちひとりはGFT社のエンジニア、ひとりはGFT社の親会社であるゲトラグ社の社長!そして最後のひとりがプロのラリードライバー。私も全日本ラリーでの優勝経験はありますが、ニュルブルクリンクをレース走るのは初めてという素人集団みたいなレベルでした。
レースではフリー走行から予選まではマイナートラブルがありましたが、それは予想の範囲内。決勝では大きなトラブルもなく初参戦でクラス4位という結果となりましたが、これには大満足です。大きな収穫はまずSSTの耐久性と信頼性が確認できたことです。そして今回はすべてスーパースポーツのオートモードで走りました。パドルシフトを持つレースカーは多くありましたが、ギヤチェンジも自動のオートモードで走ったのは私たちだけだと思います。これはレースに向けて若干シフトパターンをモディファイをして臨んだんですが、パドルシフトにすら触らず、ステアリング操作に集中することができたので、安定して運転できたのだと思います。
路面変化の激しいニュルブルクリンクにおいて24時間を高速で走り切れたことの要因としては、エボXのロングホイールベース(2,650mm)が挙げられると思います。この思想はエボXだけでなく、ギャラン フォルティス、同スポーツバックにも踏襲されていますが、連続走行時の安心感と疲労の軽減につながっていることも実感できました。
またS-AWC(ACD/AYC/ASC)は、旋回時の操舵角を少なくし内輪の空転が最小限になるように制御してくれ、またタイヤ4輪の仕事量を理想的に制御してくれます。24時間レースではタイヤの性能低下やタイヤ摩耗に起因する交換の頻度を競合他車に比べ少なくすることができました。さらに旋回時の左右輪制御はハンドル操舵量を低減し、ドライバーの疲労を軽減してくれました。また、ウェット路面でリヤが滑った時もクルマの挙動を立て直してくれたので、怖い思いをせずにすみました。レース中でもこんなに楽にニュルブルクリンクを走れるとは予想以上でした。
反省すべき部分もいくつかありましたが、ベース車両の良さが好結果に結び付いたと実感できたレースでした。また私が今回このレースに出場できたことは非常に大きな収穫だったと思います。実際に24時間を走りきることで得られたインフォメーションを自分なりに解析できましたし、またその内容を日本に伝えることができました。今後も開発のサポートという形でこのチームに参加できたらうれしいですね」

効果絶大なラリーアートパーツ

「今回のエボⅩにはラリーアートの『スポーツフロントアンダースポイラー』、『スポーツフロントバンパーインテークダクト』を装着しました。まず『スポーツフロントアンダースポイラー』ですが、レースにおいて空力というのは非常に重要な要素で、実際に走ってみると体感できるほど効果は絶大でした。わずか数cmの厚みのパーツですが、コーナーの旋回スピードも最高速もアップしました。ニュルブルクリンクは起伏が激しく路面のデコボコも多いコースですから、もっと煮詰めていくとさらに大きな武器になると感じました。また『スポーツフロントバンパーインテークダクト』ですが、今回私たちのクルマにはインテークダクトの内側にSST用のオイルクーラーを設置していました。世界一過酷なレースですのでSSTの油温上昇について若干不安を抱えていたのですが、全く問題なく効率よく冷えましたので、このダクトの効果も非常に大きかったと思います」

TAKAO MATSUI
松井孝夫
三菱自動車R&Dヨーロッパ 車両実験担当マネージャー
1991年三菱自動車工業入社。研究部車両研究グループにて運動性能関係の基礎&先行研究を行う。98年より現・運動性能実験部 操安・乗心地開発試験グループにて量産車における、操安・乗り心地開発試験担当。08年4月 より三菱自動車R&Dヨーロッパにて運動性能関係に関する、欧州向け車両の開発支援、および欧州の新型車トレンドや技術調査 を担当している。一方、プライベーターとして全日本ラリー選手権にも出場し、3回の優勝を含め多数の入賞経験を持つ。
ニュルブルクリンク24時間レースとは
ドイツ中西部、ベルギーとの国境に近いアイフェル山中ニュルブルクに1927年に建設された山岳コースで、現存するノルトシュライフェ(北周回路)は1周20kmを超え高低差は実に300m。ここにはありとあらゆる路面の状況があると言われ、市販スポーツカーやタイヤのテストにも使用されることが多い。このノルトシュライフェとF1が開催されるグランプリコース(通称:南コース)をつないだ1周25.378kmのコースで年に一度、24時間耐久レースが開催され、レースウィークは20万人を超えるファンで大いに賑わう。
24時間レース(通称:ニュル24時間)は、1970年に第1回大会が開催され、毎年200台前後の車両が参加。排気量や改造範囲によりいくつものクラスに区分されている。出場できるのは市販車をベースにしたツーリングカーで、地元ドイツのポルシェ、BMWの参加が多い。またこのニュル24時間を市販車のテストとして活用するメーカーもあり、09年は独ゲトラグ・フォード・トランスミッション(GFT)社がランサーエボリューションXをSSTのテストの場とした。
09年ニュル24時間とランサーエボリューションⅩ
第37回大会となった09年は世界的な経済不況もあり参加台数が200台を割った。これまでに旧ラリーアート・ジャーマニーや地元プライベートチームがランサーエボリューションで参戦したことはあったが、09年は初めてエボXが参戦。排気量2,000cc未満+過給器付きのSP3Tクラスに区分された。SP3Tクラスは昨年衝撃的なデビューウィンを飾った地元フォルクスワーゲンワークスのシロッコ、アウディTT、同A3、セアト・レオン、スバル・インプレッサなど16台が参戦する激戦区。GFT社では市販のエボXをベースにレース仕様に仕立てて参戦。すべてSSTのオートモードで走り切り、ニュル24時間デビュー戦を地元VW/アウディに続くクラス4位でフィニッシュした。
【STP3Tクラス順位】
順位 ドライバー 車両 LAP
1 Johansson Jimmy / Gruber Florian / Thiim Nicki / Karlhofer Martin VW Scirocco 142周
2 Deegener Elmar / Wohlfahrt Jurgen / Breuer Christoph / Gass Hans Martin Audi A3 139周
3 Heger Altfrid / van Dam Carlo / Cheng Cong Fu / Mailleux Franck VW Scirocco GT 24 139周
4 Quadder Karsten / Nittel Uwe / Matsui Takao / Hagenmeyer Tobias Mitsubishi Lancer Evo X 133周
5 Shimizu Kazuo / Yoshida Toshihiro / Hattori Naoki / Matsuda Koji Subaru GRB 133周